Stories in the True Lives
心の奥底の魂の震えを描く写真とストーリー
その希望を討て −Episode 26-

んーとね、俺今トメ子って女の子探しててね、
いや、まあ、なんの因果かね、別にどうしてもってわけじゃあないんだけど、
ほらやっぱりここは大人としてきちっと大人のすごさをね、見せつけとかないと
またあいつつけあがるからさ、まあそういうわけで、、、、

と気づくとなぜか絵の女性に向って心の中でぶつくさぶつくさと、
つぶやいてしまっている俺。何でこうも言い訳がましいのだろうか。

絵の中の、栗色に見える髪を結いあげ
その当時の日本(推測)にしては
たぶん珍しい洋装をしているその女性には全く見覚えがなかった。
まだ若くて20代中頃のその女性はかわいらしくもきりっとした表情で
絵の中でたたずんでいた。若い女性らしい希望と
同時に何か責任のようなものを、誇らしげに背負っている
自らそれを率先して引き受けているという、潔いものを感じさせる。

見たこともないはずなのに、俺の中に風景も含めて既視感があり
ただの絵のはずなのにえもいわれぬ存在感を放っていた。

絵をこんなにじっくり見たのは人生で初ではなかろうか。
描いたのが誰かはサインでは判別がつかなかったが
描いた人と描かれている女性との間にあった
会話や沈黙、緊張感、匂い、空気感が
そこに油絵具と共に封じ込められている気がした。

平面なはずの絵から立体的な何かが放たれいる。

そこには時間さえも超越した、まぎれもない空間が存在するのだ。

空間。

俺の知らない空間がこの館にあるのか。

どこかにそれはあるんだな。
どこかにそれはあるんでしょう?お姉さん。

俺は床にしゃがみ込み
頬杖をついて絵に話しかけてみた。

でもそれってさあ、俺どうやってみつけんだろ。
ねえねえ、お姉さん。

沈黙。

溜息。(もちろん俺の)

そうだよね、俺それ自分で見つけなきゃ意味ないよね。
あなたを絵の中で見たようにすればいいってことだよね。
いや、これは質問でなくて確認です。確認。

でもあなた誰ですか?

俺あなた知ってますか?

あ、いいんです、答えなくっても。えへへ。

なんてことをやっている自分にあきれ
頭を自分でこつこつと叩いた。

しゃーねぇな、と俺は立ち上がり
もう一度絵を見つめた。

俺はその瞬間俺の目がおかしいのかと思い
目を強く何度も閉じては開いた。

というのも、絵の中の女性の首が
少しずつ少しずつちょっと回って
俺を真正面から見据えた。(ような気がしたからだ。)


一体全体俺はどうかしてしまったのか。
何がどうしたというのだ。とにかく心臓がバクバクした。

なんか路線代わってホラー話に
エキストラ参加と相成ったのか。

まぎれもなく女性の顔が俺をまっすぐに見ていた。
のみならず

今度は口の端が少しずつ動いてきりっとした口元が
だんだん笑っている口のように変化していきそうに見え
俺は小さく悲鳴を上げた。
真面目から微笑みまでの途中経過が
こんなに恐ろしいものとは知らなかった。


恐ろしすぎる。

俺には耐えられない。

どうか止まってくれ!元に戻ってくれ!
絵画は絵画らしく。学生は学生らしく。社会人は社会人らしく。

「何やってんの、富田君?」

ふがっと振り向くと
ドアによりかかった榊原玲子が
かなり怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

ふげっと振り返り絵を見ると

そこには元通りの絵の中の女性が
何事もなかったかのように
とりすまして存在していた。

<続く>


【2008/09/07 17:09】 | その希望を討て
その希望を討て -Episode 25-

「俺は別にあなたのためにここにやってきたわけじゃあない。
トメ子のためだ、なんてかっこいいことも言わない。
つまりは、俺のちっぽけな自尊心のためだ。
だけど俺はどんな理由だろうともトメ子は見つけ出すし
そして俺たちはそのまま俺たちの世界に帰るそれだけだ。

あなたに利用されるのもまっぴらだし、
あなたの野望にはとんと関心がない。
もし俺にかなえたい夢が現れれば
自分の持っている物すべてをたずさせてぶち当たるし
己の持っている物が不足であるとしたら
それをまた自分で補うまでだ。

何より自分の限界を知り
それを知りつつまた限界を破っていくっていうのが
とても真っ当な生き方だと思うけど。」

なぜだか俺は一人興奮して、
持っていた懐中時計を握りしめながら
気がつくと大演説をぶっていた。

そんな情熱が自分の中に潜んでいたことに
自分が一番驚いていた。

しかし語り終わり肩で息をする僕を
寺島は冷ややかで落ち着いた眼で見つめていた。
まるで興奮する理由がよくわからない、、、といった風に。

「僕には君のそのパッションの拠り所がよくわからないな。
なんだか無駄にエネルギーを使っているようにも見える。
しかし、それならそれで構わない。
君は君の道を行く、私は私の道を行く。
それが交わろうが交わらなかろうが私にも関係のないことだ。
こちらはこちらで勝手にやらせてもらおう。
ただし文句は受けつけないよ。

君だって君のしたいようにするわけだから。

協力というより、、、私たちは隙があれば搾取する

といった方に方向転換するわけだ。

それも君の意思を継いだ結果だ。
ただし誤解しないでくれたまえ。
何も危害を与えるということを言っているわけではないのだよ。」

そう言い終わると寺島は
窓の外へ目をやった。

「じゃあ俺はこの広い屋敷の中をトメ子求めて探します。
邪魔はしないでくださいね」
「ああ、邪魔はせんよ。むしろ率先して君のやりやすいようにしたいぐらいだ」

寺島は窓の外を見続けながらふっと笑って言った。
しかしその笑顔はどこか満ち足りていない何かを物語っているように見えた。
もちろん俺にはそれが何なのかは分からなかったのだが。

俺は別に探す当てが特別ないまま
その部屋を後にし、
暗くてひんやりとした廊下へ出た。

ああは言ったものの、さてどうしたものか。
俺には皆目見当はついていないのだから。

壁に耳あり障子に目あり。
とは言うけれど。さて。

暗い廊下の重厚な階段をいつくか上った。
気がつくと
最上階らしいところへついた。

廊下を奥へ奥へと進むと
大きな二枚扉があった。

押してみる。

ぎぎぎぎぎぎぃぃ

と音をたてて扉が動いた。
重い布地のカーテンがぴっちりとしまっていて
中は暗くあまりよく見えなかったので

俺は扉を開けたまま窓へ歩み寄り
カーテンを思いっきり引っ張った。

すると今まで真っ暗だった部屋に
太陽の明かりがすーっと入ってきて
部屋の全貌がすっかり見渡せた。

壁に耳あり障子に目あり。
壁に耳あり障子に目あり。
壁に耳あり障子にメアリー

メアリ??

なにを言っているんだ俺は。
メアリーじゃなくて。トメ子。俺の探しているのはト・メ・子。

俺は頭をかきむしった。
そして何とはなしに、ふと上を見上げた。

するとそこには

映画の小公子とか、高慢と偏見とかに出てきそうな
しっかりとした額縁の重厚な油絵が掛かっており、
その絵の中の女性が俺をまっすぐに見つめ返していた。

<続く>

【2008/09/03 20:07】 | その希望を討て
その希望を討て -Episode 24-

「君はなんというのか、タイミングがすごくいいのか悪いのか
どちらとも判別がつきかねるね。
まあ、どちらでも私にはあまり関係のないことだがね」

そう寺島は言うと、こちらを見ずに、ふっ、と笑った。

「あなたは何が一体目的なんですか?
普通に先生やってりゃぁいいじゃないですか」

なんとなく小馬鹿にされている気がしたので
小憎らしいことを言いたかったのだがあまり成功しなかった。

「君にはかなえたい、そうだな、、、夢、はあるかね」
そう寺島は言うと、さっきまでトメ子がいたらしい部屋の
テーブル上の鉢植えを触った。

「まあそれなりにありますけど」

本当はどこか妥協している感がある自分の生き方の
痛いところを突かれた気がしてはっきりとは答えられず、
そんな自分が少し歯がゆかった。

「努力と熱意と知性、これがあれば大体のことはかなうと教えられてきた。
だが、もう一つ、、、というより、ある種まったく別のアプローチが
必要になってくるんだよ。知性とは全く関係のないアプローチがね。

努力でその部分を補うことができると思ってきた。しかしね、
どうやらそうでもない、
ということがこの年齢になってようやく分かったということころだ。

だから単純に君らに協力を願っているだけなのだ。
自分で言うのもなんだが、私には知性がある。

だから、この知性をもってすれば、
別の方法論を天性のもとして持っているものが分かるのだよ、居眠り君」

俺には寺島の話は全く理解できなかった。

ならばその方法論を自分で学べばいいではないか。

ただそれだけのことだ。

誰かが寺島の欲するところの犠牲や、
義務的な協力者になる必要性など、どこにもない。

しかし俺は寺島に抗いがたいものを感じていた。
それはあまり気分のいいものではなかった。

力、、、と言ってしまうには複雑で
パワーというほど絶大ではない。

しかし、普段はあまり意識しない、
けれども確かに俺の中にもある、とても身勝手でわがままな情熱と
共鳴してしまうのだ。

「君だって私と同じだ。違うかい?」

冷ややかで、とても冷静な寺島の視線と絡み合った。

俺はなぜ対抗する自分の言葉を持たないのだろう。
俺はなぜ、違う、と言い切れないのだろう。

いいようのない悔しさが込み上げてきた。

トメ子、俺はお前のあまり好きじゃない、ツタのおじさんに完敗だ。

まったく嫌になる。

俺は寺島の視線から逃れるように
くるっと向きを変えた。
するとその拍子に、パンダおじさんがくれた、懐中時計がポケットの中で
ごろっと動いた。

それは実際の懐中時計の重さよりもやや重量があるように感じられた。
俺はポケットから時計を取り出し眺めた。
ぴかぴかしている、、、というよりはテカテカしているそれは
じっと俺のことを見つめ返していた。

ばかもん、悔しいとか、負けたとか、そういう問題じゃあないんじゃ。
負けようが悔しかろうが、やらにゃいかん時があるじゃろ。

俺の中の想像のおじさんが、勝手に叱咤激励してきた。
俺は思わず懐中時計をぐっと手の中で握り締めた。
そしてもう一度開いた。

すると懐中時計を見つめているその視線の先に
小さな黒い塊が見えた。

蟻か?と思い床に目を近づけ見てみた。
そして人差し指でそっと触り
じーっと眺めた。

なんだろう。

んー、ベトベトしているな。

なんか食いもんか。

すると、ふっと突然何の脈絡もなく
トメ子はまだこの洋館の中にいる、と思った。

パンダおじさん、俺には逆に方法論なんて分からない。
だけど、とにかく

俺にはトメ子がどこにいるか、知らないけど知っている、
という根拠のない確信が

手にした懐中時計とベトベトした物体を通して湧き上がってきた。

<続く>





【2008/08/28 20:59】 | その希望を討て
その希望を討て -Episode 23-

「本当はもうちっといろいろ特訓したいところなんじゃがな、
どうやら、ほんまに時間なさそうじゃわ」

そう言うとおじさんは、眼鏡をおもむろにはずし
ハンカチでキコキコ音が鳴りそうなぐらい眼鏡を懸命に拭きだした。

「これからはOn the job trainingっちゅーことじゃわな」

しばらくコキコキ磨いたあと、眼鏡を光の方にかざし、汚れを最終チェックして
これでよし、とでも言うように、また団子鼻にかけなおした。

「またあのきれいなお譲さんとこ戻ってもらって、あとはよしなに」

そういうと白いタキシードの汚れでも払うかのようにパンパンとはたいた。

「よしなにって、何にも一個も意味わかんないっすけど」

俺は気弱に言った。

「意味なんか分かんなくたってやらにゃぁならんときが、あるでしょ」

そう言うとおじさんは懐から懐中時計を出した。

「これあげるから、困ったらこれ見なさい。んで、わしの言ったこと思い出す、いいね」

言ったことって、、、なんか教訓めいたこと言われましたっけ、、、と言いそうになったが
飲み込み、ずっしりと重量感のある懐中時計を受け取った。

「たとえばその今手に感じている重み、それをしっかり受け取ってほしいんじゃわよ」

なんだかへんてこりんな感じで諭された。

「あんたに今残されているのは、、、、いや、これは自分で知らねばならんな」
ま、これ頑張れば、彼女できると思って、んーま、がんばってよ」

そういうと、おじさんはくるっと背を向け、長い廊下を歩きだそうとした。

「ちょ、ちょっと待ってください」

俺はあわてて呼び止めた。

「なんじゃい」

俺は言うべき言葉があったから呼び止めたはずなのに
いざ、おじさんがこちらを振り返ると、言いたかったことなどなかったような気がした。

「ええーっと、とにかく、よくわかんないすんけど、ありがとうございました」
俺はぺこりとお辞儀をした。

「礼などいらんわい。これからが本番で、そこが一番のおいしいところじゃからの。
おいしいところはどうしたってわしは傍観者じゃからの。じゃがそれも道楽というものよ、むふふ」

そういうとまたくるりを踵を返して、後ろ手で手を振りながら
薄暗い廊下をどんどんと歩いて行ってしまった。

タキシードの白さが洋館の闇の中へすっぽりと吸い込まれるのを確認してから
俺はおじさんとは反対方向へと歩いた。

すぐ榊原玲子に追いついた。
彼女は俺の不在にまったく気づいていなかったようで
「遅いわよ、早くして頂戴」

と不機嫌そうに言っただけだった。

一体あのおじさんは誰だったんだろう?

考えても分からないのだが。

しかし俺の思考もそこでやむなく中断した。

前の方が何やら騒然としている。
幾人かの体格のよい男たちがトランシーバー片手に
何事か話し合っている。

その奥に俺は寺島の姿を見た。

彼も俺の姿を確認した。

「やあ、君かい、君とこういう形で会うことになろうとは、思いもしなかったね、居眠り君」

ああ、本当だよ、と俺は心の中で、つぶやいた。

<続く>





【2008/08/24 11:43】 | その希望を討て
その希望を討て -Episode 22-

「じゃあ、まず特訓じゃな」

とおじさんはおもむろにそういうと両の拳を俺の前につきだした。

「何?」

おれは少々ふてくされ気味に聞いた。

「何、じゃない。この拳のどっちにナニがはいっとる。どっちじゃ」
「ナニってなんすか?」
「だーっ、そんなことはどうでもいいから、どっちじゃ!」

目の玉を眼鏡の奥でくりくりさせながら、しかしおじさんは容赦なく
拳を突き出してきた。
汗でセルロイドの眼鏡がだいぶ鼻からずり落ちていたが
そんなことはおじさんは一顧だにしなかった。

「うーん、じゃあ、こっち」

俺が適当に一つの拳を指さすと
ばかもん、と拳をぱっと開いて俺の頭を殴った

「っつーか、なんも入ってないじゃないすか、手のひら、手のひら!」
俺はいってーと言い頭をさすりながら、抗議した。

「適当に言うな、このばかもん。時間がないなか特訓しとるんじゃぞ。
もう一回じゃ。どっちのあれにナニが入っとる?」

おじさんはもう一度、ぶんっと音がなっているのでは、と錯覚するぐらい
勢いよくその両手を突き出した。

ナニ、じゃ対象物がわからねえじゃねえかよ、と俺はぶつくさいいながらも
両方の拳を見つめた。
そして言われるともなく目を閉じた。

最初は、こんなことして何になるのだろう、
榊原玲子は俺がいないことを変に思っているのじゃないか、
もしかしたら探しているかもしれない、などなど
頭の中で色々な思いがよぎり、掌の「ナニ」のことを
しばし忘れてしまっていた。

しかし、しばらくすると、急に自分の前の「ナニ」が
うっすらと存在感を放ち始めた。

そしてそれらは、もうおじさんの拳ではなくなり
よくわからない二つの別々の生き物のように感じられた。
それは別々に息をし、別々の生を歩む、別々の単体。

そして、それらを注意深く丹念に耳を傾けるように注意して感じていくと
俺から見て右側の生き物が少しおびえているように感じられた。
脅えそして同時にそこにかすかな希望を持っている。
震えながら明日への活路を見出したいと願っている、
それ。

俺は目を閉じたまま右の生き物へ手を伸ばし
「こっちだ」

と言った。

おじさんが初めて嬉しそうに満面の笑みをたたえて言った。

「Good ,Good,Good Job!」

そして手のひらを開き、それを眼の前へかざし
ふーっと息を吹いた。

<続く>




【2008/08/21 20:14】 | その希望を討て
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プロフィール

Author:にゃお
元英会話講師,、ヒーラー。
紆余曲折を経てただ今OL中。
写真を始めたのを機に、
ストーリーも書き始めました。

「その希望を討て」
-Episode 3-より、
写真は友人の「ともぴい」作
(リンク先:蒼蒼葵傾)
でコラボとなっています。

また蒼蒼葵傾にて
にゃおコラボとして短編も
載せていただいております。
リンクよりお訊ねください。

もしあなたの胸の奥にある、
熱い何かにヒットすれば
とても幸せです。

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