
「君はなんというのか、タイミングがすごくいいのか悪いのか
どちらとも判別がつきかねるね。
まあ、どちらでも私にはあまり関係のないことだがね」
そう寺島は言うと、こちらを見ずに、ふっ、と笑った。
「あなたは何が一体目的なんですか?
普通に先生やってりゃぁいいじゃないですか」
なんとなく小馬鹿にされている気がしたので
小憎らしいことを言いたかったのだがあまり成功しなかった。
「君にはかなえたい、そうだな、、、夢、はあるかね」
そう寺島は言うと、さっきまでトメ子がいたらしい部屋の
テーブル上の鉢植えを触った。
「まあそれなりにありますけど」
本当はどこか妥協している感がある自分の生き方の
痛いところを突かれた気がしてはっきりとは答えられず、
そんな自分が少し歯がゆかった。
「努力と熱意と知性、これがあれば大体のことはかなうと教えられてきた。
だが、もう一つ、、、というより、ある種まったく別のアプローチが
必要になってくるんだよ。知性とは全く関係のないアプローチがね。
努力でその部分を補うことができると思ってきた。しかしね、
どうやらそうでもない、
ということがこの年齢になってようやく分かったということころだ。
だから単純に君らに協力を願っているだけなのだ。
自分で言うのもなんだが、私には知性がある。
だから、この知性をもってすれば、
別の方法論を天性のもとして持っているものが分かるのだよ、居眠り君」
俺には寺島の話は全く理解できなかった。
ならばその方法論を自分で学べばいいではないか。
ただそれだけのことだ。
誰かが寺島の欲するところの犠牲や、
義務的な協力者になる必要性など、どこにもない。
しかし俺は寺島に抗いがたいものを感じていた。
それはあまり気分のいいものではなかった。
力、、、と言ってしまうには複雑で
パワーというほど絶大ではない。
しかし、普段はあまり意識しない、
けれども確かに俺の中にもある、とても身勝手でわがままな情熱と
共鳴してしまうのだ。
「君だって私と同じだ。違うかい?」
冷ややかで、とても冷静な寺島の視線と絡み合った。
俺はなぜ対抗する自分の言葉を持たないのだろう。
俺はなぜ、違う、と言い切れないのだろう。
いいようのない悔しさが込み上げてきた。
トメ子、俺はお前のあまり好きじゃない、ツタのおじさんに完敗だ。
まったく嫌になる。
俺は寺島の視線から逃れるように
くるっと向きを変えた。
するとその拍子に、パンダおじさんがくれた、懐中時計がポケットの中で
ごろっと動いた。
それは実際の懐中時計の重さよりもやや重量があるように感じられた。
俺はポケットから時計を取り出し眺めた。
ぴかぴかしている、、、というよりはテカテカしているそれは
じっと俺のことを見つめ返していた。
ばかもん、悔しいとか、負けたとか、そういう問題じゃあないんじゃ。
負けようが悔しかろうが、やらにゃいかん時があるじゃろ。
俺の中の想像のおじさんが、勝手に叱咤激励してきた。
俺は思わず懐中時計をぐっと手の中で握り締めた。
そしてもう一度開いた。
すると懐中時計を見つめているその視線の先に
小さな黒い塊が見えた。
蟻か?と思い床に目を近づけ見てみた。
そして人差し指でそっと触り
じーっと眺めた。
なんだろう。
んー、ベトベトしているな。
なんか食いもんか。
すると、ふっと突然何の脈絡もなく
トメ子はまだこの洋館の中にいる、と思った。
パンダおじさん、俺には逆に方法論なんて分からない。
だけど、とにかく
俺にはトメ子がどこにいるか、知らないけど知っている、
という根拠のない確信が
手にした懐中時計とベトベトした物体を通して湧き上がってきた。
<続く>